ローズ・イン・タイドランド

『厳しい現実をもはねのける、子どもの力強い生命力こそ
私が敬愛する想像の源だ』      テリー・ギリアム


監督のこの言葉には、すごく共感を覚える。
想像力は、そう、生命力なんだ、
現実を生き抜いていくために、必要な力なんだと、私は思う。

現実のモノゴトは、捉え方次第。
辛くて、厳しくて、と考えること自体が、相当自分を苦しめるし
傷めつける行為だから、そこにマゾヒスティックな喜びを感じる人には
よした方がいい、とは言わないけれど。
主観的にみればとてつもなく悲劇的なことが、
客観的にみるとすごく滑稽だったりするなんてのは、よくある話。
自分の身に起こった不幸というのは、結構いい笑い話のネタになる。

自分はさして不幸ではない、と考えるためのもうひとつの方法として、
もっと不幸な状況の人と比べてみる、というのがあって、
これをなぜだか子どもに推奨する大人が多いのだけれど、
(例:○○○(国名)の子ども達は食べる物もないのよ、云々)
私はこの方法が好きではない。
これまで自分の身に降りかかった不運や逆境と比較するならまだしも、
他の人の不幸に比べて自分はまだマシ、なんて考えることそのものが
矮小だし、美しくない。他人と比べてどうだっていうの。
幸せや不幸せは、自分がどう感じるかが肝心であって、
他人に言い聞かされたり、評価されたりすることで
「なるほど、あたしゃ幸せだ」なんて納得できるものではないし、ましてや
自分より不幸な他人がいることで、自分のランクが上がるわけもない。

薬を使ってトリップしたり、お酒に溺れたりして現実を忘れるのではなく、
想像力で捉え方を変える、というのも、
もしかしたら逃避かな、と考えたりはしたけれど、
監督が言うように『(現実を)はねのける生命力』=想像力、であるなら
それは消極的ではなく、積極的な現実との取り組み方だと思う。
確かに思い返してみれば、手ひどく苛められた小学生の頃を、
(大人になってから「あれは好きな女の子を構いたかったんだね」と
苛めた本人が言ったそうだけど、断言してもいい。そんなものではない。
あれははっきりと悪意を持った暴力だったし、屈辱だった。
傷つけば傷つくほど優しくなり、強くなれる、そんな種類の傷ではなく、
めちゃくちゃな傷痕はいまだに厄介な心のハンディになっている)
なんとか乗り切れたのは、想像力のなせる技だったのかもしれない。

クラス全員の見ている前で、屈辱的な暴力に耐えている間、
私の想像していたのは、たとえば継母や姉に苛められても
最後には幸せになるシンデレラ、とかではなく、
どんな拷問を受けても仲間の隠れ家や作戦について口を割らない、
勇ましい女戦士だったりしたのだけれど、今考えると
ものすごく弱っちくて仲間なんかいなかったのにねー、と
やっぱりちょっと滑稽で、自分がいじらしくもあったりするのである。

タイドランド(Tide Land)は干潟・乾地。「不毛の地」。
そこにたった1人で取り残された少女、ジェライザ・ローズの現実と、
彼女の想像力が生む幻想の物語。
ローズ役のジョデル・フェルランドがとてつもない。
たぶん撮影当時は10歳くらいだと思うのだけれど、
ほとんど1人芝居というこの役を演じきって、美しく妖艶でちょっと怖い。
日本だと、子役に演じさせること自体に物議を醸しそうだが、
こればかりは、特に映画では、子どもでないと成立しない。
でも、いないだろうな、日本にこんな子役。

ジャネット・マクティアの魔女っぽさ、
父親役ジェフ・ブリッジスのダメさ加減もとてもいい。
好きな映画です。

ジョデル・フェルランドの美女っぷりはこんな感じ↓。
Web Magazineハニカム「ローズ・イン・タイドランド」
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# by onlymoonshine | 2007-12-11 19:45 | full moon

母ノミタユメ

「この前ねえ、夢かうつつか・・・」

ふいに思い出したように、母が話しはじめる。

「お父さんが閻魔さまと議論をしてたわ」

飲みかけたビールにむせそうになるのをかろうじてこらえて、
閻魔さまと、っていう段階でもうそれは夢じゃないの、と言う私に
生真面目な顔をして「混ぜ返さないで」と母は言う。

夢かうつつか、なんて言うから、と言いかけて私は口をつぐんだ。
いつだって彼女は大まじめなのだ。
だから、つっこまれたり茶々を入れられたりすると真剣に怒る。
こういう時は黙って話を聞くに限るのだ。
それで?、と私が目で促すと、母は頷いて話を続けた。


閻魔さまの前っていうのは、お白州のような所でしょう。
生きてきた間にしたことが全部そこで明らかにされて、
犯した罪によって地獄へ行くか極楽へ行くかを決められるの。
地獄にもいろんな場所があって、
ほら、針の山みたいな所とか、灼熱地獄なんかもあるわけよ。

で、お父さんもいろんな罪状を並べられるんだけど、
閻魔さまに向かって
「良いか悪いかの判断なんて、人の主観で変わるものだ。
 あんたの主観で地獄だの極楽だの、勝手に決められちゃ困る」
なんて言い返してるの。


ははぁ、お父さんらしいね、と私が頷くと、
「でしょう?」と母はため息をついた。
「絶対に、はいそうですか、なんて言わないんだから。
 誰にだって理屈をこねて、議論をふっかけるのよ。
 閻魔さまにたてついたって、仕方ないのにねぇ」。
いや、まあそれはあなたの見た夢であって、
つまり夢の中で父にそう言わせているのはあなたなんだけど、と
おかしくなるのを我慢して、私も「そうよねぇ」と眉をひそめて見せる。


「物事の一面しか見ずに判断するのはいかがなものか。
 ある面から見ると善なることが、他の面から見れば悪であったり
 するものだろう。自分の主観だけで判断せず、
 あらゆる角度から考察すべきではないのかね!」

父の口振りを真似しながら、目を剥きテーブルをドン!と叩く
迫真の演技に苦笑しつつ、「で、閻魔さまはどうしてるの?」と訊く。


それがねえ、お父さんが長々と演説をぶってるものだから、
閻魔さまも辟易しちゃってね、こう、椅子の肘掛けをトントンしながら
「言いたいことはわかった」って話を打ち切ろうとするんだけど、
「いや、言いたいことの半分も言ってないのに、わかったなんて
 言われちゃ困る」
って、お父さんは話し続けるのよ。
後ろもだいぶつかえてきてますから、なんて閻魔さまの部下が
耳打ちしてきたりして、ますます閻魔さまはイライラして、
トントン、コツコツ肘掛けを叩くの。そうするとお父さん、
「人が真面目に話してるんだから、真摯な態度で聞くべきだ」
なんて注意してるの。「時間はたっぷりあるんだから」って。
もうお父さんの後ろにはずらーっと人の列が出来てて、
みんながお父さんの演説を聴いてるのよ。


ははぁ、もうそれはお父さん止まらないね、と笑う私。
閻魔さまの前にどっかり腰をおろして話し続ける父の
いきいきした表情が目に浮かんでくる。
死後の世界の存在など、およそ信じていたとは思えない父なので、
地獄の業火に焼かれる姿も、極楽で蓮の池のほとりに佇む姿も
なかなか想像し難いのだけれど、
閻魔さまと議論中、というのは父に一番ふさわしいような気がする。

私がいつかそこへ行くまで、父が議論を続けていてくれたなら、
長い長い列の後ろから、父の熱弁を聞かせてもらいたいと思う。



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# by onlymoonshine | 2007-05-12 13:09 | half moon

夢ノハナシ

私の夢。

ここのところ、ずっと怖い夢をみていた。
斎場に行ったときのショックのせいだと思う。

夢のなかでは、
なぜかあの棺を乗せて運んでいく台の上に
布団がしいてあり、そこに母が寝ている。
母はこちらに顔を向けて、横向きに寝て、
きょとんとしたような目で私たちを見ている。

え、間違ってるよ。ちがう、ちがう。

そう思って止めようとするのに、
係員はガガーッと台を押して、母を窯の方へ連れていってしまう。
あのガラス戸の向こうに連れて行かれたらもう戻れない。
必死で追いかけようとするところで、目が醒める。

「お母さんが!」

汗びっしょりになって、布団をはねのけると、
旦那さまがやってきて、どうしたの、と訊く。

お布団に寝たままでね、目を開けてこっちを見たままでね、
お母さんが運ばれていってしまったよ。

私の説明を黙って聞いてから、旦那さまは
お布団のままなんておかしいね、
生きているのに連れて行かれるなんて変だね、
だから、それは夢だよ、と言う。
夢だとわかっても、とても怖い。

ずっと怖い夢を見ていたけれど、
父は一度も夢のなかに現れなかった。
それが、父の死からちょうど2週間がたった昨夜、
というか今朝の夢に、父がようやく登場した。

父は目を閉じたまま、籐の椅子に座らされている。
亡くなったときと、ちょうど同じように
私たちは家族で父の顔を覗き込んでいる。
すると、父が目を開けた。
「お母さん、」と私は声をあげる。
「お父さんが目を開けた!」

それはまるで、亡くなった時の逆回しのような感じだった。

ゆっくりと目を開けた父は、
でもやはり元気でぴんぴんしてるわけではなくて、
力のない声で「ちょっと静かにしていて」と言う。
ちょっと生き返っただけで、また逝ってしまうのかもしれない、と
私は気が気じゃなくて、でも、もしまた逝ってしまうなら
今度は父の死に目に会えるように旦那さまを呼ばなくちゃ、と
携帯電話を取りにいこうとする。
でも、目を離した隙にまた父が目を閉じてしまうんじゃないかと
心配で、母に「ここを離れないでね」と頼むのに、
なぜか母はのんきに「お茶でもいれましょう」と
立ち上がろうとする。

「ダメだってば、そこにいてよ」
「ちょっとお茶をいれてくるだけよ」
「ちょっとでもダメだってば」

のんきな母にいらだちながら、言い合っていると
父がまた静かな声で私たちをなだめるように言う。

「俺ならお茶はいいよ。もう死んでるんだから」



旦那さまの夢。

さぁやちゃんは、暴れ熊の調教師だったよ、と
旦那さまが言う。
「暴れ熊?」
そう、すごく凶暴なの。2メートル半くらいの大きい熊。
さぁやちゃんがしばらく面倒をみることになった、って言うから
友達と一緒に見に行こうと思ったら、
向こうからさぁやちゃんが熊と寄り添ってやってくるんだ。

その熊はさぁやちゃんといる時だけ、おとなしいの。
だからさぁやちゃんは寝る時も熊と一緒。
暴れ熊を調教して、おとなしくなったら群れに帰すんだって。
つまり、さぁやちゃんは熊の更正員みたいな仕事をしてるんだよ。

熊って、群れになってるんだっけ。
それに、熊の更正員ってなんなんだ?

そう思いつつも、「それで?」と訊く私。

はっ、と気づいたら
暴れ熊が勝手にさぁやちゃんの家から出てきたんだ。
さぁやちゃんが一緒じゃない、やばい、と思って
全速力で走ったんだ。
追っかけてくるの。ものすごく速いんだよ、熊。
ほら、夢の中ってさ、全速力で走れないでしょ、普通。
それが、やってみたら走れるんだよ。
だけどさ、夢の中なのに疲れるの。

「へえ・・・」
夢の中って全速力で走れなかったかな。
私は夢の中で走ろうとすると、
いつも人にぶつかって走れないから、
まだ全速力をだせたことがないのかもしれないけど。

そう考えながら、旦那さまの話の続きを待ったけれど、
どうやらまた夢の中へ戻ってしまったようで、
暴れ熊がその後どうなったのかはわからなかった。



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# by onlymoonshine | 2007-03-06 17:08 | half moon

じゅうたんコロコロ

カーペットの上を転がしながらお掃除するやつ。
ロール状の粘着テープに、
掃除機では取りきれなかった糸くずやゴミなどが
大量にくっつく。

あのコロコロした後の粘着テープは
人を不安にさせますね。

なんで、こんなに髪の毛が、とか
なんで、ここにこんな毛が、とか。
(微妙な違いをご理解下さい)

そして、“こんな毛”を発見してしまった時に
この色合いは俺のじゃない、
いや、この毛質は私のじゃない、と
互いに言い張って譲らないお馬鹿な夫婦。


本当に、なぜここに、と思うような場所で
それは発見されることがある。
パソコンデスクの引き出しから発見した時は
本気で情けなくなった。



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# by onlymoonshine | 2007-02-03 11:40 | half moon

人情話に弱いのです

1/24。萩原浩「母恋旅烏」読了。

やはり今月読んだ「誘拐ラプソディー」と、
その前に読んだ「ハードボイルド・エッグ」に続いて
3冊目の萩原作品である。

いい。いいなぁ~。
前2作に続き、今回もまたウルウルしてしまった。
ちなみに今月読んだ本は、今のところ

・「パイナップルの彼方」山本文緒
・「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎
・「サーフスプラッシュ」桜井亜美
・「黒い家」貴志祐介
そして「母恋旅烏」「誘拐ラプソディー」萩原浩。
昨日からは恩田陸の「劫尽童女」を読み始めている。

読書日記「Afternoon Library」が
未だに去年の夏に踏みとどまっているので、
とりあえずタイトルだけでも書いておこうと思う
情けない私。
・・・書きます。ぼちぼちと。書く気はあるのだ。
読むペースに追いつかないだけなんだよぅ。

萩原浩さんの作品は、基本的に人情話だ。
情けなくて、弱っちくて、世間的に「ダメな奴」のレッテルを
貼られているような人が主人公。
そこからさらに悲惨な目にあったり、窮地に追い込まれたり、
なけなしの見栄をはってずっこけたり、というジタバタぶりは滑稽で、
「ここまではないよなぁ」と頭ではわかっているのに釣り込まれる。
そして、思わず声をあげて笑ってしまうこと請け合いの
膝裏カックン的な可笑しさ。
そしてさらに、思わず目を潤ませてしまう泣かせどころもツボにはまる。

うまいっ、と膝を打ちたくなる。
萩原さんは、たぶん落語を相当聴いてると思いますね。

「母恋旅烏」は旅回り一座の物語なので、
それこそ思いきりどっぷり人情話だ。
人情話にハマるお年頃って・・・そろそろやばいのかしらねぇ。
いや、お年頃は差し引いても、やはり
うまいっ!あっぱれ!と思わせる書き手だと思うのだけれど。

萩原作品とはまったく世界が違うので、
比較の対象にはならないのだが、
「桜井亜美」は女子高生に大人気の作家だというし、
「虹の女神」の映画化がちょっと話題になっていたので、
どんなもんかいな~と思っていたところ、
e-ブックオフの105円古本コーナーに山積み(見たんじゃないけど)
だったのでまとめ買いしてみた。

・・・薄い。

本も薄いんだけど、中身もなんだか
コミックのノベルス版みたいに感じてしまった。
女子高生と感動を分かち合おうと思ったのが無謀だったか。
まとめ買いしちゃったものは仕方ないので、
「とりあえずなんか活字」と思った時に読むことにしてるけど、
萩原浩が純米酒なら、桜井亜美はドクターペッパー。
伊坂幸太郎はバーボンソーダで、
貴志祐介はブラディマリー、
山本文緒は・・・うーん、白ワイン?

ドクターペッパーが似合う年ではけしてないので、
口に合わないのも仕方ない。
♪お酒はぬるめの燗がいいぃ~
基本的には赤ワインの私だけれど、「人肌」の萩原浩に乾杯!




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# by onlymoonshine | 2007-01-25 20:50 | full moon

ハチスカコロク

Yちゃんは、蜂須賀小六の子孫、なのだそうだ。

その話を聞いた時、
「へえぇ~、そうなんですかぁ~」と
えらく感心してみせた私、なのだけれど、
はて、ハチスカコロクって何をした人なんだっけ、と
実は心の中で首を傾げていたのだった。

蜂須賀小六。
名前は知ってるんだけどな~。
きっと、武将かなんかだよな。

隠すまでもなく、トコトン歴史の苦手な私なのである。
歴史に限らず、何かを暗記するということが
私には体質的に合わないんだわ、と
十代の初めくらいに決めつけて、
年号や数式の暗記を放棄してここまで来てしまった。

それじゃ、なんでセリフは覚えられるのか、と
よく聞かれるのだけれど、
台本とにらめっこして暗記しようとしても
全然覚えられないものが、
読み合わせをして声に出し、耳から入った途端に、
するすると頭に入るというか、染みこんでくる。
たぶん頭よりも耳で覚えるタイプなのだと思う。

そんなわけで「蜂須賀小六」のイメージが
まったく浮かんでこないままだった私は、
「ねえねえ、蜂須賀小六って何した人だっけ?」
と、旦那さまに訊いてみた。
旦那さまは地理に関しては
「四国は日本海側にある」というくらい
めちゃくちゃなことを言うけれど、
歴史に関してはたぶん私なんかよりも詳しい。
知識のソースは、ほぼ漫画かゲーム。
結構、歴史関係の漫画やゲームっていうのはあるものらしい。

「ハチスカコロクか・・・」
旦那さまはちょっと考え、そして単純明快に答えた。
「たしか、俳句を詠む人だよ」





訊かなければよかった、と思った。
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# by onlymoonshine | 2007-01-15 18:52 | moonless

ジョージ山本

お正月休み、ということで
同級生の友達がお店へ遊びに来てくれました。
エリちゃんとみぃちゃんは高校の同級生で演劇部のOB仲間。
二人とも主婦で、もう高校生になろうという子どももいます。
ひょえええ。

中学の同窓会でも感じたことなのだけれど、
女の子、というのは中学・高校くらいで
ほぼ成長しきっている、というか、ほぼ完成形なのですね。
だから十数年ぶりに会っても、「えっ、誰?」というほど
ものすごく変化していることはあまりない。
まあ多少崩れてきている、というのは
お互いに認めざるを得ないにしても。

でも、男の子となると、
びっくりするほどの変化を遂げている場合が
なきにしもあらず、なのですね、これがまた。
たとえば、いつも目線の下にいた小さな男の子が
見上げるような大男になっている。
たとえば、ガリガリでひょろひょろのもやしっ子が
恰幅の良いお父さんになっている。
ちなみにうちの中学は「男子は坊主頭」という規則だったのですが、
髪の毛があるのとないのとでは、それだけで随分印象が違う。
しかし中には、中学時代はもちろん坊主頭なのだけれど、
時を経ても、いや、時を経たからこそ、
再び「ほぼ坊主頭」に近い状態に戻っている人もいます。
「薄い」といっては失礼だし、「微毛」というのも哀れを誘う、
そんな坊主頭・リターンズの1人に声をかけられました。

「おお、久しぶり。きれいになったなー」
誉められればこちらも悪い気はしない。
こちらからも何かお褒めの言葉を、と思う私。
「またまたぁ。○○くんは、えーと、あんまり変わらないよね」
すると彼は、ちょっとブゼンとして言いました。
「おまえは俺のフサフサ時代を知らないからそう言うんだぞ。
すいてもらわなきゃいけないくらい、ぼーぼーに生えてたんだからな!」
す、スルドイ。言葉の裏を読まれたか。
フサフサ時代に会いたかったね、とは言わぬが花。

さて、それはさておき。
高校の同級生、エリちゃんとみぃちゃん。
車だから、とお酒は飲めなかったのですが、
ノンアルコールカクテルを飲みながら話が弾みます。
他の同級生の近況を伝えあったり、OB会の企画をたてたり、
もちろん懐かしい思い出話にも花が咲きます。
記憶というのは面白いもので、
3人とも同じ高校に通い、同じ演劇部に所属し、
同じクラスになったことだってあるというのに、
それぞれが少しずつ違う記憶のピースを持っています。
あれ、それは知らなかったな、とか
あれ、そんなことあったっけ?、などということも結構多く
記憶のジグソーパズルに次々とピースがはめられていく。

ついこの前のことみたいな気がするのに、
私たちの子どもがもう高校生になるなんてねぇ、と
ため息まじりに語り合うエリちゃんとみぃちゃん。
エリちゃんの娘さんは一ヶ月ほど
アメリカにホームステイをしていたそうなのですが、
エリちゃんの家にもよく外国の子ども達がホームステイに来るらしい。
私の友達も外国からの留学生を預かっているので、
「大変だけど、楽しそうだよね」と私が訊くと、
「いやぁ、それが本当に大変で。
この間はイタリアの女の子が来ていたんだけどね」
と、彼女は話し始めました。

「彼女の頭の中では、日本は東京なんだって。
だから東京に行きたいって言うんだけど、私も詳しくないし・・・」
「うんうん。どこに連れて行けばいいかわかんないよねぇ。
ディズニーランドとか?」
と相槌を打つみぃちゃん。いや、ディズニーランドは千葉だし。
「秋葉原とかじゃないかなぁ」
うちの旦那さまが言うと、エリちゃんは
「ううん、それがね、どうしても行きたいところがあるっていうの」
と言い、それから首を傾げて考え始めました。

「山本譲二・・・だったっけ」
「山本譲治?演歌のぉ?」
イマドキのイタリア娘は演歌にご執心なのか。まさかなぁ。
「違う、山本譲治じゃない」
「それじゃ、香田晋?」と、みぃちゃん。
「そうじゃなくて、えーとね、山本・・・」
「演歌の人?」
「違う違う。日本人で、イタリアで超有名な、」
「えー。イタリアで有名な演歌歌手なんているの?」
みぃちゃん、そろそろ演歌から離れた方がいいと思う。
えーと、えーと、と思い出そうとしているエリちゃん。
「山本・・・デザインの。寛斎じゃなくて」
「おお!」
そこでハタを膝を打つ私。「ヨウジ・ヤマモトか」。
「そう!それぇ~!!」
パッと顔を上げたエリちゃんのおでこに
「スッキリ」という文字が見えるかのよう。

「ヨウジ・ヤマモトとジョージ山本じゃ随分違うね」
と、笑う私。「えー、なにそれ?」と首を傾げているみぃちゃんに、
「ワイズの。ほれ、ブランドの」と説明すると、
「うわー、それじゃ香田晋とも大違い~」と笑いだした。
うん、それは相当違うね。

ブランドとかデザイナーとかの名前には相当疎くなっている昨今。
そして、映画のタイトルや俳優の名前を思い出すのに
ものすごく遠回りをしなくてはいけなくなった昨今。
ヨウジ・ヤマモトが出てきただけでも自分を誉めてやりたい、と
元・女子高生は思うのでありました。



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# by onlymoonshine | 2007-01-04 17:59 | half moon

きっとさぁやに怒られる物語

つやつやと光沢を放つデスクを爪で弾きながら、
さぁやはハイバックのプレジデントチェアをくるりと回す。
耳に押し当てた受話器から五回目のコール音が響く。
コン、コン。
さぁやの爪がもう二度、デスクを叩いた時、
カチャリ、と音がしてやっと電話が通じた。
「はい、パブ・軍手ハウスです」
いらだちを含んだため息を大きく吐き出して、
さぁやの冷たい声が響く。
「はい、じゃないでしょう。電話に出る時は」
「あっ、すみません。お疲れさんです、社長」
「何度言えばわかるの。意識が足りないのよ」
チェアを回し、さぁやはデスクに向き直る。
デスクの上にはここひと月の売上げ帳簿が広げられている。
「どうなってるの、キープの数は」
「は、はあ」
電話の向こうで、声が小さくなる。
「年度末の工事が済んで以来、ちょっと伸び悩んでいて」
「それで手をこまねいて待っている、というわけ?
営業努力が足りないわね。現場へは行ったの?」
「現場、ですか?」
「自ら現場へ出て、働きながらお客さまを拡大するの。
チャンスは自分でつかむものよ」
「はっ、はい!わかりましたっ」
受話器を戻しながら、さぁやは小さく首を振る。
相変わらずだ。何も変わってはいない。
軍手ハウスが、まだピックハウスという名前だった頃から、
この男は自らチャンスをつかもうという貪欲さに欠けている。
でも、とさぁやはチェアに身を沈めながら、ふと考えた。
私の今は、この男がチャンスをみすみす見逃したおかげで
あるようなもの。少しは感謝しなくちゃいけないのかもね。
さぁやの脳裏に、ある冬の夜の出来事が甦る。
店舗の移転を迫られ、悩んでいた頃。
そう、あれは2006年。もうすぐクリスマスという夜だった。

照明を少し落とした店内には、クリスマスツリーのライトが
点滅している。
「そうかぁ、これから大変だね」
ピックハウスのママ、Annieの言葉にさぁやは頷いた。
「お店の場所は決まりそうなんですけど、お店の名前も
替えなくちゃいけないし・・・」
この年末の忙しい時期に、さぁやの店「Link」は移転を
迫られていた。まだ、店を始めて一年もたってはいない。
良いお客さまとスタッフにも恵まれ、経営も順調だというのに。
なんとか急いで新店舗での営業を再開しなくては。
そんな気ぜわしい間を縫って、さぁやはピックハウスに顔を
出していた。
「あれ?さぁやさん、軍手ですか?」
バイトのみのりんが声をかけてきた。・・・軍手?
彼女はカウンターの上に置いたさぁやの白い手袋を見ている。
軍手ですって。失礼な。うちのお店のまりもたんからもらった
クリスマスプレゼントの手袋を、軍手扱いするなんて。
「ち、ちがいますよぅ。ほら、可愛いお花だって付いてるし」
「あはは、マスターとお揃いかと思った。職人の店で買ったんでしょ」
Annieが笑い声をあげる。ピックハウスのマスターは手荒れ防止に
軍手を愛用しているのだ。
「そうだ、新しいお店の名前『現場パブ・ワーク』にしたら?」
「いいねいいね、『職人パブ・現場』とか」
面白がってあれこれ言い始めるマスターとAnnie。
「そんなぁ。だったらピックハウスも軍手ハウスですよ」
言い返したさぁやの脳裏にピン、と閃くものがあった。
あれ?いいかもしれない。いけるかもしれない。
マスターとAnnieの表情を窺う。暢気に笑っている二人。
この人たちにとって、これはただの冗談なのだ。
こんなナイスなアイデアなのに。
「じゃあさ、さぁやはワークス・グループの社長になって、
その傘下に『職人スナック・ワーク』、『パブ・軍手ハウス』、
『出稼ぎミュージックハウス・現場&現場』が入るっていうのは?」
「みんな軍手をキープするんだよね」
「こちら、十年物の軍手でございます、とかね」
ああ、アイデアの垂れ流し。
いいの?もらっちゃうよ。このアイデア、そっくり使っちゃうよ。
さぁやは少し心にとがめるものを感じている自分を叱咤する。
何をためらっているの、さぁや。
チャンスはつかもうとする者にしか与えられないのよ。
そう、運命の女神は私に微笑んだの。
はやる心をひた隠しながら、さぁやはとっておきの笑顔を浮かべた。
「ひどーい。そんなの無理に決まってるじゃないですかあ~」

♪ぞうさん ぞうさん オラはにんきものぉ~

廊下から聞こえてくる歌声で、さぁやは現実に戻った。
妹のエリカだ。もう「クレヨンしんちゃん」は歌うなと言ったのに。
イメージダウンになるからやめなさい、と言い聞かせたにも関わらず
エリカはいつもこの歌を口ずさむ。
そういえば軍手ハウスがまだピックハウスだった頃、マスターの薦めで
「クレヨンしんちゃんとホイットニー・ヒューストンのデュエット」を
エリカが歌ったテープが、まだあの店には残っているはずだ。
流出でもしたら大変なことになる。早く回収しなくては。
コツ、コツ、コツ。
さぁやは思慮を巡らせながらデスクを爪で弾く。
すんなりと渡すだろうか、あのマスター。
いいわ、ゴネたりしたらノルマを増やすと言えばいい。

♪オラはすごいぞ 天才的だぞ 将来楽しみだぁ~

やめなさい、と言っているのにエリカったら。
お姉ちゃん、そろそろ怒っちゃうぞ。
さぁやは廊下へ向かって声を張り上げた。
「エリカ!そんな歌じゃなくて、新曲の練習をしなさい!」
「あぁ~い、とぅいまてぇ~ん!」
それもやめろと言ったのに。

♪1、2、現場 2、2、現場
歌いながらエリカの声が遠ざかる。
東証一部上場企業にのし上がったワークス・グループの若き女社長
さぁやと、妹エリカは『ワークシスターズ』としてこの春デビューを飾った。
発売を控えた第二弾は郷ひろみの名曲のリメイク、『現場サンバ』だ。
♪現場、現場、現場サンバぁ~
かすかに聞こえるエリカの声に合わせてハミングしながら、
再びさぁやは受話器を取る。
「はい、出稼ぎミュージックハウス・現場&現場です」
「はい、じゃないでしょう、電話に出るときは。
今夜の現場ライブの曲目は何?・・・なんですって、吉田拓郎?
岡林信康にしなさいって言ったでしょう。オープニングはもちろん
『山谷ブルース』よ」
この後は、『パブ・軍手ハウス』から『レストラン・飯場』へ左遷した
Annieにも電話して活を入れなければならない。
ワークスグループ女社長・さぁやの一日は忙しい。


(この物語はフィクションです)

新店舗での営業再開に向けて、がんばれ!さぁや!!

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# by onlymoonshine | 2006-12-29 20:18 | half moon

ケンカ売ってんのかぃ!

美容院へ行くと、最後にメイクを直してくれます。
タオルのっけたり、シャンプーしたりで、
ちょっとメイクが取れてしまうので。
「ついでに眉カットもしましょうか~?」なんて
嬉しいサービスもございます。

母譲りの天然薄眉系な私。加えて、誰に似たのか、
それとも単純に努力が足りないのか
呆れるほど不器用な私。
眉毛のお手入れは大事、とわかっていても、
自分でカットしようとすると、ただでさえ薄い眉毛が悲惨なことに。

眉毛専用のハサミやコームを使うなんて、もってのほか。
きれいなお姉さんは好きですか系のシェーバーを買って
使ってみても、眉なし芳一スレスレ。
眉毛にはお経が書けなかったんだもん、今日の私は芳一♪
などとボケても眉毛は戻らない。
ラフカディオ・ハーンはギリシア生まれのアイルランド人。
1879年 食堂「不景気屋」を経営するも失敗、って
名に恥じない潰れ方してドウスル。(参照:Wikipedia

八雲くんのことはさておき、まあ、そんなわけで
私の眉カットは常に美容院のサービスをアテにしております。
眉のお手入れをしてもらい、アイブロウもしてもらい、
「ちょっと新製品のパウダーファンデを使ってみますね」
という言葉にも、気分良く「お願いします」と応える私。

たぶん購入を勧められるのでしょうが、
いいのよ、至れり尽くせりなんだから、
ファンデの一つくらいは買ったって。

二十歳そこそこ(に、見える)の可愛い見習い美容師さんは、
オススメの超微粒子ファンデーションをパフに取り、
スッ、スッと下からなで上げるようにしてつけてくれる。

「こうして、そっとのせてあげるようにして」
「ふんふん」
「後から、ちょっと押さえてあげて」
「なるほどね」

マニュアルなのかなぁ。
ほとんどの美容師さんは、髪とか肌を擬人化する。
トリートメントでマメにいたわってあげましょうね、とか
トップにボリュームを持たせてあげると、とか。
考えてみれば変な言葉遣いなのに、
ほぼ違和感なく浸透してしまっている。
そういえば、調理番組に出ていたコックさんまで
「弱火でゆっくり煮込んであげることが大切です」
などとのたまっていた。
「煮込んで揚げる」と勘違いされたらどうするのでしょう。
今や髪もカブもヒト扱いだ。

見習い美容師さんの言葉を聞きながら、
つらつら思っているうちに、メイク直しも終盤へとさしかかる。
「とってもキメの細かい仕上がりですよ」
可愛い笑顔で鏡の中の私に語りかけながら、
最後に彼女はキメ台詞とばかりにこう言った。

「こういう付け方をしてあげると、お顔も少しは小さく見えるんですよぉ」

な・・・なんつった、今?
少しは。・・・「少しは」?少しはって、おぃぃぃぃ!
あのね。あのね。
この場合、「少し」に「は」をくっつけちゃうと、
どういう意味になるかわかってる?
「お顔の大きさに比して決して充分ではありませんが、少しは」とか、
「この付け方でもとてもカバーしきれませんが、少しは」とか、
「私の力ではこれで精一杯ですが、少しは」とか、
そーゆー意味になっちゃうのよ。
失礼じゃない?
いくら私がカット料金のみで眉カットもメイク直しもサービスしてもらう
セコイお客だとしても、そりゃあんまりじゃない?

目をまん丸く見開いた私の、胸の内にも気づかずに
「ねー?」と可愛く微笑みかける見習い美容師さん。
思わず苦笑しながらも、「そうねー」と応えてしまう私。
彼女にはまったく悪意なんてないのだ。
ただ、髪や肌をヒト並みに扱うぶん、
ヒトに対する言葉遣いがおろそかになってしまうだけなのだ。

そういう言葉に引っかかりを感じてしまうのは、
やはり職業柄なのか、それとも年のせいなのか。
そんなことを考えていたら、
「少しは」お顔を小さく見せる超微粒子ファンデーションを
うっかり買い忘れてしまった。残念。




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# by onlymoonshine | 2006-12-21 11:48 | moonless

ごはん三杯はいけます

深夜の焼き肉パーティーをしました。
9時スタート、のはずが、
皆さん色々とお忙しくて、
11時頃にジュウジュウとお肉を焼き始めました。

わぃわぃ、飲んで食べて、
さすがに寝るだろうと思っていた子ども達も
ハイテンションを保ち続け、
みんなを送り出したのが午前3時を回った頃。

「もう寝る。もう無理」
という旦那さまを寝かしつけ、
そこから私は全部屋をファブリーズ行脚したのですが。

朝、目覚めると我が家の空気は
香ばしいままでした。
いける。この空気なら、ごはん三杯はいける。

そう思いつつも、またファブリーズに手を伸ばす私であった。

主婦A「え?昨日焼き肉だったの?」
主婦B「全然臭わなかったわね~」
主婦C(「OK!」と、小さくガッツポーズ)

CMほど焼き肉の残り香は甘くないと思う。




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# by onlymoonshine | 2006-12-15 11:26 | half moon