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ローズ・イン・タイドランド

『厳しい現実をもはねのける、子どもの力強い生命力こそ
私が敬愛する想像の源だ』      テリー・ギリアム


監督のこの言葉には、すごく共感を覚える。
想像力は、そう、生命力なんだ、
現実を生き抜いていくために、必要な力なんだと、私は思う。

現実のモノゴトは、捉え方次第。
辛くて、厳しくて、と考えること自体が、相当自分を苦しめるし
傷めつける行為だから、そこにマゾヒスティックな喜びを感じる人には
よした方がいい、とは言わないけれど。
主観的にみればとてつもなく悲劇的なことが、
客観的にみるとすごく滑稽だったりするなんてのは、よくある話。
自分の身に起こった不幸というのは、結構いい笑い話のネタになる。

自分はさして不幸ではない、と考えるためのもうひとつの方法として、
もっと不幸な状況の人と比べてみる、というのがあって、
これをなぜだか子どもに推奨する大人が多いのだけれど、
(例:○○○(国名)の子ども達は食べる物もないのよ、云々)
私はこの方法が好きではない。
これまで自分の身に降りかかった不運や逆境と比較するならまだしも、
他の人の不幸に比べて自分はまだマシ、なんて考えることそのものが
矮小だし、美しくない。他人と比べてどうだっていうの。
幸せや不幸せは、自分がどう感じるかが肝心であって、
他人に言い聞かされたり、評価されたりすることで
「なるほど、あたしゃ幸せだ」なんて納得できるものではないし、ましてや
自分より不幸な他人がいることで、自分のランクが上がるわけもない。

薬を使ってトリップしたり、お酒に溺れたりして現実を忘れるのではなく、
想像力で捉え方を変える、というのも、
もしかしたら逃避かな、と考えたりはしたけれど、
監督が言うように『(現実を)はねのける生命力』=想像力、であるなら
それは消極的ではなく、積極的な現実との取り組み方だと思う。
確かに思い返してみれば、手ひどく苛められた小学生の頃を、
(大人になってから「あれは好きな女の子を構いたかったんだね」と
苛めた本人が言ったそうだけど、断言してもいい。そんなものではない。
あれははっきりと悪意を持った暴力だったし、屈辱だった。
傷つけば傷つくほど優しくなり、強くなれる、そんな種類の傷ではなく、
めちゃくちゃな傷痕はいまだに厄介な心のハンディになっている)
なんとか乗り切れたのは、想像力のなせる技だったのかもしれない。

クラス全員の見ている前で、屈辱的な暴力に耐えている間、
私の想像していたのは、たとえば継母や姉に苛められても
最後には幸せになるシンデレラ、とかではなく、
どんな拷問を受けても仲間の隠れ家や作戦について口を割らない、
勇ましい女戦士だったりしたのだけれど、今考えると
ものすごく弱っちくて仲間なんかいなかったのにねー、と
やっぱりちょっと滑稽で、自分がいじらしくもあったりするのである。

タイドランド(Tide Land)は干潟・乾地。「不毛の地」。
そこにたった1人で取り残された少女、ジェライザ・ローズの現実と、
彼女の想像力が生む幻想の物語。
ローズ役のジョデル・フェルランドがとてつもない。
たぶん撮影当時は10歳くらいだと思うのだけれど、
ほとんど1人芝居というこの役を演じきって、美しく妖艶でちょっと怖い。
日本だと、子役に演じさせること自体に物議を醸しそうだが、
こればかりは、特に映画では、子どもでないと成立しない。
でも、いないだろうな、日本にこんな子役。

ジャネット・マクティアの魔女っぽさ、
父親役ジェフ・ブリッジスのダメさ加減もとてもいい。
好きな映画です。

ジョデル・フェルランドの美女っぷりはこんな感じ↓。
Web Magazineハニカム「ローズ・イン・タイドランド」
# by onlymoonshine | 2007-12-11 19:45 | full moon

母ノミタユメ

「この前ねえ、夢かうつつか・・・」

ふいに思い出したように、母が話しはじめる。

「お父さんが閻魔さまと議論をしてたわ」

飲みかけたビールにむせそうになるのをかろうじてこらえて、
閻魔さまと、っていう段階でもうそれは夢じゃないの、と言う私に
生真面目な顔をして「混ぜ返さないで」と母は言う。

夢かうつつか、なんて言うから、と言いかけて私は口をつぐんだ。
いつだって彼女は大まじめなのだ。
だから、つっこまれたり茶々を入れられたりすると真剣に怒る。
こういう時は黙って話を聞くに限るのだ。
それで?、と私が目で促すと、母は頷いて話を続けた。


閻魔さまの前っていうのは、お白州のような所でしょう。
生きてきた間にしたことが全部そこで明らかにされて、
犯した罪によって地獄へ行くか極楽へ行くかを決められるの。
地獄にもいろんな場所があって、
ほら、針の山みたいな所とか、灼熱地獄なんかもあるわけよ。

で、お父さんもいろんな罪状を並べられるんだけど、
閻魔さまに向かって
「良いか悪いかの判断なんて、人の主観で変わるものだ。
 あんたの主観で地獄だの極楽だの、勝手に決められちゃ困る」
なんて言い返してるの。


ははぁ、お父さんらしいね、と私が頷くと、
「でしょう?」と母はため息をついた。
「絶対に、はいそうですか、なんて言わないんだから。
 誰にだって理屈をこねて、議論をふっかけるのよ。
 閻魔さまにたてついたって、仕方ないのにねぇ」。
いや、まあそれはあなたの見た夢であって、
つまり夢の中で父にそう言わせているのはあなたなんだけど、と
おかしくなるのを我慢して、私も「そうよねぇ」と眉をひそめて見せる。


「物事の一面しか見ずに判断するのはいかがなものか。
 ある面から見ると善なることが、他の面から見れば悪であったり
 するものだろう。自分の主観だけで判断せず、
 あらゆる角度から考察すべきではないのかね!」

父の口振りを真似しながら、目を剥きテーブルをドン!と叩く
迫真の演技に苦笑しつつ、「で、閻魔さまはどうしてるの?」と訊く。


それがねえ、お父さんが長々と演説をぶってるものだから、
閻魔さまも辟易しちゃってね、こう、椅子の肘掛けをトントンしながら
「言いたいことはわかった」って話を打ち切ろうとするんだけど、
「いや、言いたいことの半分も言ってないのに、わかったなんて
 言われちゃ困る」
って、お父さんは話し続けるのよ。
後ろもだいぶつかえてきてますから、なんて閻魔さまの部下が
耳打ちしてきたりして、ますます閻魔さまはイライラして、
トントン、コツコツ肘掛けを叩くの。そうするとお父さん、
「人が真面目に話してるんだから、真摯な態度で聞くべきだ」
なんて注意してるの。「時間はたっぷりあるんだから」って。
もうお父さんの後ろにはずらーっと人の列が出来てて、
みんながお父さんの演説を聴いてるのよ。


ははぁ、もうそれはお父さん止まらないね、と笑う私。
閻魔さまの前にどっかり腰をおろして話し続ける父の
いきいきした表情が目に浮かんでくる。
死後の世界の存在など、およそ信じていたとは思えない父なので、
地獄の業火に焼かれる姿も、極楽で蓮の池のほとりに佇む姿も
なかなか想像し難いのだけれど、
閻魔さまと議論中、というのは父に一番ふさわしいような気がする。

私がいつかそこへ行くまで、父が議論を続けていてくれたなら、
長い長い列の後ろから、父の熱弁を聞かせてもらいたいと思う。



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# by onlymoonshine | 2007-05-12 13:09 | half moon

夢ノハナシ

私の夢。

ここのところ、ずっと怖い夢をみていた。
斎場に行ったときのショックのせいだと思う。

夢のなかでは、
なぜかあの棺を乗せて運んでいく台の上に
布団がしいてあり、そこに母が寝ている。
母はこちらに顔を向けて、横向きに寝て、
きょとんとしたような目で私たちを見ている。

え、間違ってるよ。ちがう、ちがう。

そう思って止めようとするのに、
係員はガガーッと台を押して、母を窯の方へ連れていってしまう。
あのガラス戸の向こうに連れて行かれたらもう戻れない。
必死で追いかけようとするところで、目が醒める。

「お母さんが!」

汗びっしょりになって、布団をはねのけると、
旦那さまがやってきて、どうしたの、と訊く。

お布団に寝たままでね、目を開けてこっちを見たままでね、
お母さんが運ばれていってしまったよ。

私の説明を黙って聞いてから、旦那さまは
お布団のままなんておかしいね、
生きているのに連れて行かれるなんて変だね、
だから、それは夢だよ、と言う。
夢だとわかっても、とても怖い。

ずっと怖い夢を見ていたけれど、
父は一度も夢のなかに現れなかった。
それが、父の死からちょうど2週間がたった昨夜、
というか今朝の夢に、父がようやく登場した。

父は目を閉じたまま、籐の椅子に座らされている。
亡くなったときと、ちょうど同じように
私たちは家族で父の顔を覗き込んでいる。
すると、父が目を開けた。
「お母さん、」と私は声をあげる。
「お父さんが目を開けた!」

それはまるで、亡くなった時の逆回しのような感じだった。

ゆっくりと目を開けた父は、
でもやはり元気でぴんぴんしてるわけではなくて、
力のない声で「ちょっと静かにしていて」と言う。
ちょっと生き返っただけで、また逝ってしまうのかもしれない、と
私は気が気じゃなくて、でも、もしまた逝ってしまうなら
今度は父の死に目に会えるように旦那さまを呼ばなくちゃ、と
携帯電話を取りにいこうとする。
でも、目を離した隙にまた父が目を閉じてしまうんじゃないかと
心配で、母に「ここを離れないでね」と頼むのに、
なぜか母はのんきに「お茶でもいれましょう」と
立ち上がろうとする。

「ダメだってば、そこにいてよ」
「ちょっとお茶をいれてくるだけよ」
「ちょっとでもダメだってば」

のんきな母にいらだちながら、言い合っていると
父がまた静かな声で私たちをなだめるように言う。

「俺ならお茶はいいよ。もう死んでるんだから」



旦那さまの夢。

さぁやちゃんは、暴れ熊の調教師だったよ、と
旦那さまが言う。
「暴れ熊?」
そう、すごく凶暴なの。2メートル半くらいの大きい熊。
さぁやちゃんがしばらく面倒をみることになった、って言うから
友達と一緒に見に行こうと思ったら、
向こうからさぁやちゃんが熊と寄り添ってやってくるんだ。

その熊はさぁやちゃんといる時だけ、おとなしいの。
だからさぁやちゃんは寝る時も熊と一緒。
暴れ熊を調教して、おとなしくなったら群れに帰すんだって。
つまり、さぁやちゃんは熊の更正員みたいな仕事をしてるんだよ。

熊って、群れになってるんだっけ。
それに、熊の更正員ってなんなんだ?

そう思いつつも、「それで?」と訊く私。

はっ、と気づいたら
暴れ熊が勝手にさぁやちゃんの家から出てきたんだ。
さぁやちゃんが一緒じゃない、やばい、と思って
全速力で走ったんだ。
追っかけてくるの。ものすごく速いんだよ、熊。
ほら、夢の中ってさ、全速力で走れないでしょ、普通。
それが、やってみたら走れるんだよ。
だけどさ、夢の中なのに疲れるの。

「へえ・・・」
夢の中って全速力で走れなかったかな。
私は夢の中で走ろうとすると、
いつも人にぶつかって走れないから、
まだ全速力をだせたことがないのかもしれないけど。

そう考えながら、旦那さまの話の続きを待ったけれど、
どうやらまた夢の中へ戻ってしまったようで、
暴れ熊がその後どうなったのかはわからなかった。



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# by onlymoonshine | 2007-03-06 17:08 | half moon

じゅうたんコロコロ

カーペットの上を転がしながらお掃除するやつ。
ロール状の粘着テープに、
掃除機では取りきれなかった糸くずやゴミなどが
大量にくっつく。

あのコロコロした後の粘着テープは
人を不安にさせますね。

なんで、こんなに髪の毛が、とか
なんで、ここにこんな毛が、とか。
(微妙な違いをご理解下さい)

そして、“こんな毛”を発見してしまった時に
この色合いは俺のじゃない、
いや、この毛質は私のじゃない、と
互いに言い張って譲らないお馬鹿な夫婦。


本当に、なぜここに、と思うような場所で
それは発見されることがある。
パソコンデスクの引き出しから発見した時は
本気で情けなくなった。



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# by onlymoonshine | 2007-02-03 11:40 | half moon

人情話に弱いのです

1/24。萩原浩「母恋旅烏」読了。

やはり今月読んだ「誘拐ラプソディー」と、
その前に読んだ「ハードボイルド・エッグ」に続いて
3冊目の萩原作品である。

いい。いいなぁ~。
前2作に続き、今回もまたウルウルしてしまった。
ちなみに今月読んだ本は、今のところ

・「パイナップルの彼方」山本文緒
・「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎
・「サーフスプラッシュ」桜井亜美
・「黒い家」貴志祐介
そして「母恋旅烏」「誘拐ラプソディー」萩原浩。
昨日からは恩田陸の「劫尽童女」を読み始めている。

読書日記「Afternoon Library」が
未だに去年の夏に踏みとどまっているので、
とりあえずタイトルだけでも書いておこうと思う
情けない私。
・・・書きます。ぼちぼちと。書く気はあるのだ。
読むペースに追いつかないだけなんだよぅ。

萩原浩さんの作品は、基本的に人情話だ。
情けなくて、弱っちくて、世間的に「ダメな奴」のレッテルを
貼られているような人が主人公。
そこからさらに悲惨な目にあったり、窮地に追い込まれたり、
なけなしの見栄をはってずっこけたり、というジタバタぶりは滑稽で、
「ここまではないよなぁ」と頭ではわかっているのに釣り込まれる。
そして、思わず声をあげて笑ってしまうこと請け合いの
膝裏カックン的な可笑しさ。
そしてさらに、思わず目を潤ませてしまう泣かせどころもツボにはまる。

うまいっ、と膝を打ちたくなる。
萩原さんは、たぶん落語を相当聴いてると思いますね。

「母恋旅烏」は旅回り一座の物語なので、
それこそ思いきりどっぷり人情話だ。
人情話にハマるお年頃って・・・そろそろやばいのかしらねぇ。
いや、お年頃は差し引いても、やはり
うまいっ!あっぱれ!と思わせる書き手だと思うのだけれど。

萩原作品とはまったく世界が違うので、
比較の対象にはならないのだが、
「桜井亜美」は女子高生に大人気の作家だというし、
「虹の女神」の映画化がちょっと話題になっていたので、
どんなもんかいな~と思っていたところ、
e-ブックオフの105円古本コーナーに山積み(見たんじゃないけど)
だったのでまとめ買いしてみた。

・・・薄い。

本も薄いんだけど、中身もなんだか
コミックのノベルス版みたいに感じてしまった。
女子高生と感動を分かち合おうと思ったのが無謀だったか。
まとめ買いしちゃったものは仕方ないので、
「とりあえずなんか活字」と思った時に読むことにしてるけど、
萩原浩が純米酒なら、桜井亜美はドクターペッパー。
伊坂幸太郎はバーボンソーダで、
貴志祐介はブラディマリー、
山本文緒は・・・うーん、白ワイン?

ドクターペッパーが似合う年ではけしてないので、
口に合わないのも仕方ない。
♪お酒はぬるめの燗がいいぃ~
基本的には赤ワインの私だけれど、「人肌」の萩原浩に乾杯!




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# by onlymoonshine | 2007-01-25 20:50 | full moon